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横浜地方裁判所 昭和38年(行)6号 判決

原告 東京日通自動車工業株式会社

被告 横浜税関長

訴訟代理人 片山邦宏 外二名

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和三七年六月二六日原告に対してなした物品税八七二、八五〇円の課税処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として、

「一、原告は昭和三二年八月中旬頃訴外内中幹男(以下内中という)より訴外森安茂徳(以下森安という)名義の一九五七年型クライスラー・サラトガ乗用自動車一台(以下本件自動車という)を買い受けた。被告は昭和三七年六月二六日、原告に対し、本件自動車に対する物品税八七二、八五〇円の課税処分(以下本件課税処分という。)をした。右処分は原告の本件自動車の譲受けが昭和三三年法律第六八号による改正前の「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和二七年法律第一一二号、以下旧特例法という。)第一二条第一項に当り、同条第三項旧物品税法第一〇条の適用を受け、原告が納税義務者であるとしてなされたものである。

二、しかし本件自動車は昭和三二年四月一九日米軍々人レイモンド・イー・ムア名義で旧特例法により免税輸入され、その後元米軍々人であつたハワード・イー・ロバート・ジュニアにより同人名義で新規登録され、更に同人より内中に譲渡され、内中は同年七月一三日森安名義で本件自動車について新規登録をし、原告は内中より前記の如く本件自動車を買受けたものであるところ、旧特例法第一二条第三項の解釈上物品税の納付義務者はいわゆる免税特権を有する者から直接関税免除物品を譲り受けた者に限られるから、本件自動車の納税義務者はロバート・ジュニアより直接本件自動車を譲り受けた森安又は内中であり原告ではない。従つて、被告の本件課税処分は、納税義務者でないものに対してなされた課税処分であり、その瑕疵が重大かつ明白であるから無効である。本件自動車の譲渡の経緯に関する被告主張の(一)の事実は認める。」

と陳述し、乙号各証の成立を認める。と述べ、被告指定代理人は「主文同旨」の判決を求め、答弁として、

「原告主張の一の事実は全て認める。同二の主張中旧特例法第一二条第三項の解釈に関する原告の見解及び本件課税処分が原告主張の事由により無効であるとの点は争うが、その余の事実は認める。

被告のなした本件課税処分は適法である。

(一)  まず本件自動車は次の経緯で譲渡された。

元米軍々属ロバート・ジイ・ギロリー及び同ジェイムス・ジイ・ポートレーは、昭和三二年四月一九日米軍々人レイモンド・イー・ムア名義で横浜税関より本件自動車を旧特例法により免税輸入し、これを内中に売渡すことにしたが同人は直接米軍々人より本件自動車を譲り受けることができなかつたので、除隊間際の米軍々人ハワード・イー・ロパート・ジュニアを名義人として所謂資格変更の方法をとることになつた。同軍人は昭和三二年五月八日福岡陸運事務所で本件自動車の新規登録を行い、除隊後、同年六月一二日右登録を抹消して同月二〇日大分陸運事務所で民間人として自己名義で新規登録した。同軍人から内中に本件自動車を譲渡するには税関に申告して譲渡の許可を受け且つ関税及び物品税を納付する必要があるのでロバート・ジュニアは内中の知人である森安を名義上の譲渡人とすることにし、その為必要な書類を一部偽造したわして内中に交付した。同人は真実は前記のような通関手続を行うことなく、これらの書類により同年七月一三日、広島陸運事務所で森安名義で本件自動車の新規登録をし、さらに同年八月中旬頃本件自動車を原告に譲渡、原告は同月一七日、東京陸運事務所で新規登録し、これを間もなく、訴外住友石炭鉱業株式会社に売却した。

(二)  そこで被告は、旧特例法第一二条第三項、旧物品税法第一〇条に基き本件課税処分を行つたものである。

原告は自己が本件自動車の納税義務者でないと主張するが、旧特例法第一二条第一項の規定及びその立法趣旨に鑑み、関税免除物品をいわゆる免税特権者より直接譲り受けた者のみならず、それを更に譲り受けた者でも、当該物品につき関税がまだ約付されていない場合は、同条第一項の適用を受けて納税義務者になることは明らかである。なお本件自動車につき原告その他の関係者から未だ関税の納付がないことは前項において述べたところより明らかである。

以上の通り本件課税処分は何ら違法な点はなく、仮に違法なりとするも当然無効となる重大かつ明白な瑕疵ありとはいえないから、本件課税処分の無効確認を求める原告の請求は失当である。」と述べた。

証拠〈省略〉

理由

原告主張の一の事実及び同二の主張中旧特例法第一二条第三項の解釈に関する原告の見解と本件課税処分が原告主張の事由により無効であるとの点を除くその余の事実並びに本件自動車の譲渡の経緯に関する被告主張の(一)の事実は当事者間に争いがなく、本件自動車につき原告その他の関係人から未だ関税の納付がないことは口頭弁論の全趣旨により明らかである。

そこで本件課税処分が違法か否かについて判断するに、旧特例法第一二条第三項旧物品税法第一〇条の適用を受ける物品税の納付義務者は旧特例法第一二条第一項所定の譲受における譲受人であるが、本件の争点は右譲受人は関税免除物品がいわゆる免税特権を有する者から日本国内において転々譲渡された場合における最初の譲受人すなわちいわゆる免税特権を有する者から直接当該物品を譲り受けた者に限られるか、又はその後の当該物品の譲受人をも含むかということに存するところ、証人坂口実雄の証言により明らかなように、旧特例法第一二条第一項は関税免除物品をいわゆる免税特権者より直接譲り受ける者のみを納税義務者としたのでは、ブローカー等がかような物品の売買に関係し隠密裡に取引が行われることからその徴税の実を期し難いので、その後の当該物品の譲受人も納税義務者とする趣旨で立法されたものであり、右の趣旨は同項但書によつても、また同項が文理上譲受をいわゆる免税特権を有する者からの直接の譲受に限定していないことからも明らかであるので、当裁判所は後者の見解を正当と考える。そうすると原告は旧特例法第一二条第一項の譲受における譲受人に該当し同条第三項旧物品税法第一〇条の適用により本件自動車の物品税納付義務者であるというべきである。」しからば、原告に対する被告のなした本件課税処分は、何らの違法も存しないといわなければならない。

よつて原告の本訴請求は、被告の仮定抗弁につき判断するまでもなく、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 久利馨 若尾元 谷沢忠弘)

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